2012年1月23日月曜日

Lie × Luck

ピッチパッチチャップチョップランダンガムメリージャック!

■『たまさか人形堂物語』 津原泰水 著 文藝春秋
少々うろ覚えだけど人形9体の名前はこんな感じだったような。「く、く、く、く、く、く、腐ってるー」なんかは一時期に内輪でちょっとした遊びになった。
『蘆屋家の崩壊』が面白かったので、この人の著作をもう少しあたってみることにした。主に幻想、ホラー系のものを読んでいくつもり。津原泰水名義で出ているものは案外少ないのね。
SO2のノベライズを手掛けたお人だとは知らなんだ。昔もしかしたら読んだかも。いや、本編の小説版だと、私が読んだのはブルースフィアのやつだけだったかな。

諦めてしまっている人形も、まずはご相談ください。あらゆる人形の修理に応じる世田谷の小さな人形店、たまさか人形堂に集う人々と人形達が織り成す物語。「毀す理由」「恋は恋」「村上迷想」「最終公演」「ガブ」「スリーピング・ビューティ」、以上6篇の連作短編集。
幼い頃からずっと人形というものに苦手意識を抱き続けてきた私は、まず「毀す理由」でがつんと重い一撃をもらうはめになった。後書きによると連載時には2作だったものを1作にまとめたものがこれであるらしく、似通った別個の案件2つが連動して解決し、晴れて全体の大団円が迎えられるという小気味よいものなのだけど、その2つの案件というのがまさに「毀す理由」に迫るもの。人間にしろクマにしろ、生き物を模したものの顔を砕いたり手や足をもいだりなんてこと、私には、少なくとも故意には絶対にできない。毀した人物を非難する気持ちからではなく、単に毀すという行為そのものがひどく恐ろしく、のっけから大いに衝撃を受けた。人形の持ち主達の行動、心情、論理を順番に解き明かしていく弾になると思いきり呑ま� ��てしまった。冨永くんは、人形はそもそも自己投影のためのツールであると言っていたけど、本来自分でない生き物をかたどったものを毀すことまでもが自己投影の手法になりえてしまうこと、同時にあくまで無生物である彼らは当然ただ黙してされるがままであることから、彼の言にどこかで納得しきれない自分がいる。一方で、大樹くんと畝川さんの行動に理解を示そうとしている部分がないではないからまた複雑な気分になる。特に畝川さんの方。美の基準たる不変の母親の顔、ひるがえって自分の顔は……というあたりがぐさりときた。結果として、心理的な抵抗と共感、両方を同時に味わう煮え切らない感じそのものを大いに楽しめる一篇となった。こういう苦味は嫌いじゃない。さらに時が経って、畝川さんがもっと老いた� �、彼女はまた修理の依頼に来店するんだろうか。
読み始めた当初は、人形にまったく明るくない私にはハードルが高いだろうかと心配したけど、そこは人形およびその持ち主と接するたまさか人形堂の人々の真摯な温かさと親しみやすさが、ぐいぐいと引っ張っていってくれた。何と言っても、視点の主が、業界人としては駆けだしだという澪さんだったのがありがたい。冨永くんや束前さんの容赦ないツッコミに堪えて学び、なんやかやと気をまわし、あれこれ思うところを感動と一緒にストレートに露わにしてくれたのがすごく良かった。時にうじうじ悩んでしまうところなんか、可愛いと思うんだ。師村さんには彼が「熊ちゃん」と口にした時に、冨永くんには彼が澪さんからの説教で凹んだところで陥落。いいなぁ、この人達。いずれ出るらしい続編が楽しみ。
 「ああもう、人形ってなんなの」(P,149)

ところで人形が苦手なのは、自分がそれに自己投影するより先に、それを自分とはまったく別個の誰かだと認識してしまうからかもしれない。それが私を見ていると思ったら最後もうダメ。実際生きている人間と目を合わせるのも苦手なんだけど、人形の眼差しは、それが生きていないからこそますます怖い、のかも。人形でなく動物のぬいぐるみならむしろ昔も今も大好き。思えば、兄妹そろって、活発かつ俊敏に動き回りそうな動物のぬいぐるみ、それも独力で楽に持ち運べる小ぶりのものを好んでいた気がする。確か、ビーグル(ということにしていた)のコリーくん(名犬ラッシーに由来。なぜ犬種を名前にしたのかはよくわからない)、ヤマネのヤマちゃん(色違いで2匹。ポケットに楽々入るサイズだったので時々うっかり洗 濯された)、イリオモテヤマネコ(ということにしていた)のルーイくん(ボンバーマンの彼らに由来)、ゴールデンレトリバーのレトちゃん、カヤネズミのカヤちゃん、ムササビのムサちゃん、モモンガのモモちゃんが主だったメンバーだった。何度目かの引越しの際に処分してしまったのをこっそり後悔していたりする。現在私の枕元にはトンベリくん(貰い物。兄のコメント「可愛い」)、フクロウちゃん(近頃「ブロダイウェズ」と名付けようかと思っているのだけどうまい略称が思いつかない)、置物のタヌキみたいな黒猫(シガラキくん)が鎮座。今後増える予定は今のところない。

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